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デザインとは、アートと真逆にあるもの。“普通”が大切なキーワード

関口そもそも小梶さんは独立前はとある大手家電メーカーにいらしたんですよね? なぜその企業に入ろうと決めたんですか?

小梶僕は入社する前から3年後には独立するつもりでいたので、個人のデザイン事務所での勤務を経験した後、一流企業での勤務も経験しより多くのことを学び、吸収したいと考えていたんです。その会社は当時全盛期でしたし、インハウスデザイナーの採用は非常に狭き門でした。企業側もしっかりと見極めて選考するために、5次面接まであったほどです。

僕はどうしてもその会社に入りたかったので、知恵を絞ってとにかく周りのライバルより目立つことをしようと考えました。みんながリクルートスーツを着ている中で、当時の僕は穴あきのクラッシュデニムを履いて、面接にはライバルメーカーのパソコンを持って挑みました(笑)。あえて怒られるようなことをして会話を生み出そうという作戦でしたが、案の定メチャクチャ怒られました。

でもそこで、なぜ僕がその他社製品を持ってきたのか、なぜこのクラッシュデニムを履いてきたのか、ということを説明する機会を貰えるじゃないですか。自分のデザインやスタイルについての考えをプレゼンできる場を強引に作ったという感じです。通常通りにやっていたら、上司の方とあんまり話す機会もないですよね。僕はそのコミュニケーションがとりたかったんです。

関口すごい発想ですね(笑)。

小梶最終面接の時は、最初から正直に「3年で会社を辞めて独立します」と宣言しました。いま思えば若気の至りで偉そうなことを言いましたが、結果的には採用していただけました。そういう経緯だったので、入社してからはすごく楽でしたね。こういう奴なんだと理解いただいてたので、お陰で面白いプロジェクトを沢山任せてもらいました。

関口小梶さん自身は、ziginc.の社長として人を採用するときに重視することとか、ここを見るというのはありますか?

小梶沢山あります。語弊がないようにはお伝えしたいのですが、実はデザイン力はほとんど見てません(笑)。僕は昔からデザインの仕事はアートとは真逆にあるものだと思っていて、デザインはクライアントのメッセージをわかりやすく伝えるコミュニケーションを生み出すことであって、クライアントの代理でそれを行う作業だと思っています。

アート作品は、個人の特徴とか、インパクトがあるもの、世界にひとつだけのものが理想だけど、デザイン作業は普通の人の感覚がないとダメです。だからこそ、奇抜でいかにもアーティスト風の「自分が作りたい作品はこういうものです」と強く提案してくる人は、アーティストタイプだと言えるので、弊社では難しいと思っています。

それよりも、しっかり挨拶ができるとか、礼儀を重んじているとか、感じがいいとか、クセが少ないとか、相手の気持ちを汲んで考える能力とか、そういう内面的な部分が大切だと思っています。なぜなら僕らはクライアントワークが多いので、取引先の思いを汲み取り良い人間関係を築けていないと、通るプレゼンもスムーズに通らない。そういう意味では人間性の良さが一番重要かもしれませんね。デザインセンス的なものはziginc.に入社してから、職種の異なる沢山の人と出会ったりする中でそこはある程度は伸びると考えています。それよりも“人に好かれること”。それは“人が好むデザインがわかること”に直結するので、この要素をとても大切にしています。

関口岡さんは、どういったことがきっかけでziginc.に来られたんですか?

小梶岡は僕が直接ヘッドハンティングしました。出張で博多に行ったときに、知人からとても優秀な子がいると聞いたので、どうしてもすぐに会いたいと言って。今考えると東京にまで連れていくことはすごく強引だったけど(笑)。彼女は唯一、履歴書を出してない社員です。

 私は山口県出身なんですが、当時は福岡にいて、そこでいろんな人に会う機会が多かったので、その繋がりで小梶を紹介してもらったんです。当時は東京に出たいという気持ちもあったし、ホームページを見たり、他の人に話を聞いたりすると、ziginc.はいい意味で堅苦しくなくとてもクリエイティブマインドな会社でいいなと思っていました。

小梶岡はファッションプレスやアパレルショップの店員さんのような雰囲気だったので、僕らがやりたい方向性をスムーズに理解してくれるだろうと直感的に感じたんです。実はデザイナーやウェブを作っている人って、自宅やパソコンの前で作業することが多いから意外と流行や洋服に無頓着な人が多いんですよ。でも、僕は人を惹きつけるビジュアルやデザインにはトレンドを取り入れることが重要だと思っているので、ziginc.には彼女のような人材が必要だと考えていました。

関口岡さんが仕事で心がけていることはどんなことですか?

 私のモットーは、“来たら打つ” です(笑)。目の前に来たものを打ち返していたら、今ここにいるというか。

関口“来たら打つ”で今ここにたどりつけたというのは、まだ仕事で何をしたいのか分からずに迷っている学生たちにとっては、参考になる話ですね。

小梶まさに千本ノックというか、できる人に仕事は降ってくるから、岡は実際にものすごく仕事量が多いんです。可哀想ですね(笑)。でもそれを着実に打ち返しながら成長しているので、いろんな球を打ち返すことによって仕事の幅が広がっているように思います。

僕は女性の感覚や感度は、色々な意味で男性より鋭いと思っています。男性はどうしても頭で物事を考えてしまうから理屈っぽくなりがちだけど、女性は感覚的でしょう。わかりやすくお伝えすると、例えばファッション業界の男性と女性のスタイリストさん。男性スタイリストは洋服の裏地や縫製、ボタンなどの仕様を特に見るんですね。いわゆる洋服をモノとして見ている傾向が強い。でも女性スタイリストは、その場で即決、この服カワイイ、これはダメという感じで洋服をモノではなく直感的に洋服=ファッション(流行)だと捉え瞬時にスタイリングするのです。ユーザーファーストであるべき僕らの仕事にはこの感覚がとても重要で、男性スタッフが必死で頭をひねって考えて作ったものを女性スタッフに見せると「うーん…」、みたいなことが社内でもよくあります(笑)。男性だけの会議よりも、根本的な視点が違う感度の高い女性が会議に参加することで、プロジェクトが良い方向へ進むことがとても多いのです。

岡知里(Chilli Oka)
ziginc. アートディレクター
高校卒業後に写真を学び、学生時代はカメラマンのアシスタントなどを経験。その後IT企業やデザインプロダクションにてキャリアを積む。福岡で働くうちに知人を通じて小梶氏と知り合い、2010年ziginc.入社。アートディレクションやウェブディレクションなど幅広く手掛けている。現在、力の源ホールディングスのコーポレートサイト、国内外の「一風堂」ウェブデザインを担当する。