close

FEATURE

一風堂の卒業生であり、人気店「ソラノイロ」の店主としてラーメン界に新しい風を吹き込みつづけている宮崎千尋氏。
かつて力の源ホールディングス会長の河原成美(かわはらしげみ)の著書と出会い、その下で働くこと決意して入社。11年間の在籍中に河原から多くを学び、多くの出会いがあり、ネットワークも広がったという。独立後も河原を「オヤジ」と呼んで慕い、今でも定期的に会って話をする仲だ。そんな宮崎さんが、仕事で大切にしていること、社員時代に実践していたこと、一風堂の魅力などについて語ってくれた。

─ 「ソラノイロ」は開業して5年半、ますます人気が高まっていますね。ミシュランのビブグルマンにも掲載されましたが、メディアの注目度も増していると感じていますか?

宮崎(以下敬称略)メディアへの露出はここ数年それほど変わってないですね。最初の2年間は、月に2~3本ずつ入っていたけど最近も少なくありません。

うちは「ベジソバ」があるので、他のお店に比べてメディアが取り上げやすいんじゃないかな、おかげさまで。これは誰かが「ベジソバ」をやるまで変わらないと思います。もしかしたら、誰かがやったとしても、うちが最初だからメディアが取り上げてくれることに変わりがないかもしれないですね。

─ まさにその「ベジソバ」で、普段ラーメンを食べない人たちをラーメン店へ呼び寄せることに成功しました。これは新しい商圏を作るという発想ですよね。

開業する前に、知り合いだった化粧品会社のマーケティングをやっている方からアドバイスをもらったんです。ラーメン界のポジショニングとか、ラーメンで一番になるにはどうすればいいんだろうとか、そういう話をしながらきちんとマーケティングを進めました。その後は自分の勘で、ビーガンとか玄米麺とか、同じセオリーでやっていっただけ。だから今でもこの分野では、誰にも負けないポジションを保てていると自負しています。

宮崎 千尋(みやざき ちひろ)
ソラノイロ店主。青山学院大学経営学部経営学科卒。大学卒業後、人材派遣会社に入社するも、ラーメン屋になりたいという思いを捨て切れずに4カ月で退社。その後、2000年に力の源ホールディングスへ入社。一風堂やラーメンダイニング「五行」の業態開発、教育機関としての力の源アカデミーの開発に従事。11年間勤めた後に、2011年麹町に『ソラノイロ』をオープン。
ラーメンにあまり親しみのない女性などをターゲットに、野菜のみで作った全く新しいラーメン「ベジソバ」を発案。ラーメン業界にベジ旋風を巻き起こした。ミシュランガイド2015東京において、ビブグルマンに初掲載。2016年秋には「京橋エドグラン」に4店舗目を出店し、ますます活躍の場を広げている。
ソラノイロ http://soranoiro-vege.com

1「ベジソバ」の発想

僕は安定して、そこそこ売れるということには何の価値も感じない

─ 斬新な「ベジソバ」を出すにあたって、不安や迷いのようなものはあったんですか?

ありまくりでしたね(笑)。
先輩たちには「こんなのラーメンじゃない」と言われるし、インターネットにもたくさん批判を書かれました。「こんなの自分でも作れる」とかね。受け入れられないことに対する不安は大きかった。でも、毎週食べに来てくれるお客さまがいたので、その人が来続けてくれる限りはやろうと思っていました。

インターネットとか同僚や先輩とか、ラーメンのことを知っている人たちの評判じゃなくて、お客さまが店に来てくれるという事実に目線を向けてやり続けたんです。
結果としてそれがいい方に繋がったんじゃないかな。

─ そもそもベジソバの発想はどこからできたのでしょう?

女性に、ラーメンをどうやって食べてもらおうかという発想から辿りついたんです。
あるとき(河原)成美さんとニンジンジュースを飲んでいて、これラーメンになりますかね?っていう会話がスタートなんです。その後は知り合いのイタリアンのシェフや先ほどのマーケティングの方とか、いろんな方々の力を借りて複合的に作ったというか。

そもそも僕は人真似が嫌いだし、ちょっとひねくれているところがあるので(笑)。
一風堂出身だから「豚骨」みたいなことに捉われたくなかった。むしろ、お客様はこれからどういうラーメンを食べたいのかということを考えました。

成美さんが一風堂を始めた時、豚骨ラーメン=臭い、汚い、店員が怖いというイメージを変えたかったというのと出発点は同じです。匂いがなくて、店内がきれいでジャズがかかっていて、優しい店員がいる店を作れば、今まで豚骨ラーメンを食べてなかった女性や感度の高い人に食べてもらえるという考え方です。

だから僕は、今の時代だったら成美さんならどうするかを考えてみました。
成美さんが同年代だったら、僕なんかよりももっと凄いものを作っていると思います。先人がいるから僕にもできたことだと思っています。
彼がいい先生となって僕にいろんなことを教えてくれたので、それを実践しているだけです。そうしていると、やることがいっぱいあり過ぎて遊んでいる暇がない(笑)。

今の人たちは、競争が激化しているから不利だという人もいるけど、実は有利なんじゃないかな。もうすでに先人が道を切り開いてくれているんですから。それなのに守りに入ってしまっている人が多い。挑戦したり、勝負に出ていたりしている人は、僕の周りを見渡しても何人かしかいません。

今はそこそこ上手くやって安定したいという考え方が多いみたいだけど、逆に勝負に出れば唯一無二になれる。僕は勝負しないと面白くないと思っています。これは性格の問題かもしれないけど、安定してそこそこ売れるということに何の価値も感じないから。
そうでないと、人のためとか世の中のためといった使命感みたいなものも生まれてこないんじゃないかなと思うんです。