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FEATURE

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クリエイティブディレクター小梶数起さん。コミュニケーションメディアや施設、店舗、商品などのコンセプトデザイン及びコンサルティングを手掛ける。その力量は業界内外で高く評価され、世界文化遺産「平等院」の大規模修復プロジェクトといった、日本文化の発展に貢献するプロジェクトにも数多く携わっている。世界展開する力の源ホールディングスのメインブランドの1つ、「一風堂」のクリエイティブ戦略にも大きく携わり、「ラーメン」を世界に打ち出す構想を立ち上げた小梶さんと、小梶さんが代表を務めるziginc.(株式会社ジグ)で一風堂のウェブデザインを担当する岡さんが登場。デザインについて、これからの力の源について、熱い想いを語った。

ファシリテーター 関口 照輝(せきぐち てるき) 力の源ホールディングス
コミュニケーション・デザインチーム

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世界に向けて発信するために
ラーメンの潜在的な価値を見出したい

関口ziginc.さんと力の源は、2015年12月のIPPUDOPARIS(パリ一号店)の出店を記念した、アパレルブランド「MIHARAYASUHIRO」、「ルノー・ジャポン」、「一風堂」の3者コラボ企画で、プロモーション全体のクリエイティブディレクションとデザイン制作進行をお願いしたのが最初ですよね。

小梶そうでした。それに合わせてローンチしたオウンドメディア『IPPUDO OUTSIDE』の開発にも携わらせていただいています。このメディアは、様々なデザインやコピーライティングなどを手掛ける僕らのようなラーメン好きの外部クリエイターたちが、力の源のスタッフと共同で作っている新しい形のウェブメディアです。こういったウェブメディアはもちろん、先ほど話に出たパリ1号店の記念イベントなどもそうですが、これからも異業種とコラボレーションすることによって、話題の創出や新たな力の源の魅力を発信していけるものを、力の源の皆さんと創っていきたいと思っています。

関口パリでもファッションショーを行う「MIHARA YASUHIRO」さんに、パリ1号店のユニフォームをデザインしていただき、そのキービジュアルをまとった、世界に一台だけのルノー カングーがお祝い走行をしたんでしたね。

小梶あのユニフォームはラーメン店として画期的でした。パリの街でも普段着として歩けるし誰もそれがラーメン屋のユニフォームだと思いもしないようなものを、一風堂のファンであるデザイナーの三原康裕さんにオーダーしました。パリのエッフェル塔やモンマルトルなどで行ったキャンペーンビジュアル撮影では、実際にパリの一号店で働いているスタッフの方々にモデルとしてご協力いただいたんです。それを多くの雑誌やウェブメディアに取り上げていただき、SNSユーザーからは「一風堂で働いてユニフォームを着たい!」「ミハラヤスヒロとコラボ!?さすが一風堂!」という反響がダイレクトに伝わってきて、手ごたえを感じたことが非常に印象に残っています。

関口ziginc.さんから見て、ラーメンや食を通して、我々がこれから世界に向けて表現していくべきことはどんなところにあると思いますか?

小梶以前からラーメンは、全国各地で味の違いや表現に大差があるにも関わらず、同じような提供スタイルの店しか無いことが不思議で面白さを感じていました。また、ラーメン屋は日常会話の話題にも上がりやすく、人と人とをつなぐコミュニケーションツールの役割も兼ねている。だから仕事で関わりを持ちたいと考えていたんです。日本のキラーコンテンツといえば漫画やゲーム、日本食はもちろん、その中に今ではラーメンも入るでしょう。その業界で一風堂を運営する会社、力の源は新しいことに常にチャレンジしている印象がありました。当時は会長の河原成美さんのことはメディアを通じての印象でしたが、職人であること以上にクリエイター気質の方なのだろうという予感があって、僕らが考えることにもしかしたら賛同いただけるんじゃないかと思っていました。

関口今後のラーメン屋についての具体的な案を少しお聞きしてもよろしいですか?とても興味深いです。

小梶今後のラーメン屋について僕らの考えのひとつにあるのは、例えば客席のテーブルトップに、品の良いテーブルクロスやセンスの良いテーブルフラワーがセッティングされたラーメン屋があってもいいんじゃないかという考えです。洋風レストランでは当たり前な演出でも、定番のスタイルがあるラーメン屋だからこそ愉快な驚きが生まれる。一風堂に食べに行く日はちょっと普段よりお洒落して、みたいな流れを今後作れたらいいなと。

例えばパスタだったら、専門店から高級レストランまで様々なサービスの形があり、一皿1,000円から5,000円以上までの幅広い価格レンジがありますよね。仕込みや設備に相当な時間と手間やコストがかかるラーメンに比べてパスタの方が価格が高いんですよね。この原因のひとつは、世間のラーメン屋のイメージと固定観念です。そろそろラーメンもパスタのようになってもいいんじゃないかと思うんです。そこに辿り着くために必要なことは何か。その問題についての僕らの答えは…味はもう十二分にどこも美味しいので問題はそこではなく、新しいサービスの形を生み出すような店舗デザインやテーブル、食器など含めたヴィジュアルの演出が鍵だと考えています。それを僕らのような人材がクリエイトすべきと思っていたので、仕事で関わりたかったというのが本音です。近い将来そういうお店が出てくればラーメン屋の価値もさらに上がっていくと思います。

関口カフェでドリンクに600円以上を支払う時代に、ラーメンの価格は、800円を超えると高いという印象があります。でも、仰るとおりラーメンは実際にはものすごく手間がかかっているんです。だからラーメンの売価が1,000円を超えてもいいんだという世界観を業界全体で作っていけたらいいのですが。

小梶それはビジュアルの問題も大きいですよね。ラーメン鉢に入ったラーメンが5,000円だったら、僕でも高いと思います。そういう意味での見せ方や演出やサービスは日本を代表する都の京都の飲食店がとても上手だと感じます。例えば京都は鱧(はも)料理が有名ですが、そもそも小骨が多くて食べにくいため雑魚として扱われていた鱧を、昔の京都の料理人が細かく切り刻み、美しい京焼に贅沢に盛って高級料理に仕立てたんです。デメリットをプラスに変える知恵と、美しく見せる工夫はコミュニケーションデザインに直に通じるので京都の「仕立て方」はすごく参考になります。

そういうことをラーメンでもできると思っています。最近、海外の有名ハイファッションブランドが日本のトラックである“デコトラ”をキャンペーンビジュアルに起用してるのですが、僕ら日本人には“デコトラ”がお洒落でファッショナブルなものという認識がなかった。それをファッションアイコンとして上手く表現していて、実際に別のものに見えてしまうほどカッコよく仕上がっている。デコトラは実はファッショナブルなものだったんだと気付かされる程に。

小梶数起(Kazuki Kokaji)
ziginc. 代表取締役 クリエイティブディレクター
京都生まれ。大阪芸術大学デザイン学科を経て、大手家電メーカーに入社。商品開発からプロダクトデザイン、セールスプロモーションまでを幅広く手掛ける。退社後はフリーランスとして活躍した後、2007年にziginc.を設立。ファッション感のあるクリエイティブ提案で、アパレル、コスメ、フード、エレクトロニクスと多岐に渡って活躍する傍ら、世界文化遺産「平等院」の大規模修復プロジェクトなど日本文化の発展を目的とするプロジェクトにも多数参画する。2014年度より「京都市未来まちづくり100人委員会」委員に就任。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)正会員。

日本人デザイナーである僕らが真っ先にやらないといけない自国アピールを、海外の人達の方が思いもよらない表現で日本文化を活用してしまう。これは毎回すごく悔しいなって思います。日本には世界に向けてアピールできる文化がこんなにも沢山あるのに、当の日本人の僕ら自身が上手く表現できずにいます。ラーメンもそのひとつなんじゃないかと思っていて、もっと潜在的な価値をデザインを通して見出していくことが僕らの課題です。

関口ラーメンにはそういうポテンシャルがありますよね。我々にはそれができる可能性があると思いますか?

小梶多分にあると思います。実はデザインで一番難しいのはフード系のパッケージングや広告です。スタイリッシュでシンプルモダンにすればするほど美味しそうに見えないし、しずる感とか温もりというのは視覚表現するのが本当に難しい。「美味しそう」という感覚は、例えば、下町のパン屋さんがそこらへんにある新聞紙などにサッと包んで差し出してくれるパンとか焼き芋屋とか車で売り歩く豆腐屋とかね。そういうコミュニケーションの形や演出を僕らはデザインしたいと考えています。お洒落フードよりも、お婆さんやお母さん達が作る近所の定食屋や蕎麦屋とか、家の味噌汁がいいという感覚は日本人には絶対あるから。

そういう部分は一風堂のVI戦略にとってもすごく大事なことです。それを踏まえた上で足りないデザインをパソコンや手で加えるバランスが難しいんですね。すべてに手を加えてしまうと、作為的な演出になリかねない。僕らはデザインの力によって一風堂の魅力を引き出すことは出来ても本来の良さを失くすことは避けたいので。

ここに来たらホッとするし、美味しそうだなっていうムードを一風堂に相応しい形で創り出したいですね。そのお手伝いができれば理想ですし、一風堂はラーメン屋のイメージを良い意味で壊しつつ新しいラーメンの世界を牽引していける存在だと思っています。