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FEATURE

2017年6月28日(水)~7月3日(月)の6日間、力の源ホールディングス傘下の農業生産法人「くしふるの大地」が運営する研修施設(大分県・久住高原)で、※アジアのパートナー企業を招集したグローバル研修が開催された。参加メンバーはアジア9カ国のパートナー企業のマネージャークラス計24名。マレーシア・インドネシア・オーストラリア、タイ・ミャンマー、シンガポール・香港・フィリピン、台湾の4班に分かれ、ラーメン創作などのグループワークも実施された。

※アジア各国にてライセンス契約を結び、一風堂の店舗運営をしている企業のこと(シンガポール、オーストラリア、インドネシアは直営事業)

一風堂初のグローバル研修を開催 海外パートナーが日本に集結

2008年に海外1号店「IPPUDO NY」をオープンして以来、一風堂の店舗は日本を除いて世界12カ国、計69店舗にのぼる(2017年6月末現在)。

文化、生活習慣、気候、言語が異なる場所で同じラーメンを提供することはそう容易なことではない。接客や食材の管理方法などさまざまな点で国によって変化するからである。そこで、世界共通の基準、つまり「IPPUDO STANDARD」を定める必要が出てくる。

研修の目的は、海外でライセンス契約展開をする国・エリアのオペレーション・マニュアルを一つひとつ確認しながら共有することだ。一風堂のグローバルチームが数年間かけて完成させたマニュアル書とVTRをもとに、実技指導やロールプレイングを交えながらキッチン・ホール全般に関する研修を進めていく。

プログラムの最後には、参加メンバーはそれぞれが自国に帰ってから実践する「アクションプラン」を発表する。この研修で学んだ知識をそれぞれの国に持ち帰り、自らがリーダーシップをとってオペレーション向上に努めるためのものだ。

図は、3日目研修スケジュール


研修の発起人の一人、Asia事業本部のエミーは、海外のパートナー企業と日々やり取りをするなかで「数年前から研修の必要性を感じていた」と言う。各国のオペレーションを標準化するために必要なことは何か。海外店舗での経験を豊富に積んだ同本部の宮木崇茂とともに、今回のグローバル研修の企画・運営を主導した。

Emmy Tong(エミー トン)


大手日系企業から2015年力の源ホールディングスに入社。母国語である中国語に加え、日本語、英語の3カ国語を話し、アジアの海外パートナー企業を結ぶ役割を果たしている。今回の研修では通訳にも従事した。
宮木崇茂(Takashige Miyaki)


2008年に力の源カンパニー(当時)入社。大阪・名古屋などでマネージャーを務めたのち、海外店舗のオープニングに携わった。現在はAsia事業本部副本部長として複数のアジア国のマネジメントに従事。

今回、調理指導を担当した宮木は、ニューヨークや香港のオープニングに携わったメンバーの一人だ。

2日目に実施されたキッチン研修では、2班ずつに分かれて調理の実技指導の時間が設けられた。ネギやチャーシューなど、トッピングで使う食材がキッチンに並ぶ。宮木は自ら手本を見せながら、マニュアルにのっとった正しい方法で実際にラーメンをつくる。

レクチャーはすべて英語だが、よく使われる言葉は日本語のまま。麺の硬さを表わす「硬麺」は「KATA」、「バリカタ」は「BARI」。そのほか、「はい」「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」「お願いします」「麺入ります」などの業務用語にも日本語がそのまま使われていた。

海外店舗の場合、白丸の基本となる「博多絹ごしとんこつ」スープは、国ごとに基本を守りながら、国やエリアの特性に合わせて味の調整をしている。工場でつくられたものを使用するケースがほとんどだが、たとえ同じ工場でつくられたスープでも、加熱や保存方法によって味やにおいが変化してしまう。その課題を解決するために、宮木を中心とした海外スタッフが、スープ管理にも一定の基準を設けた。

正しい方法を説明するだけにはとどまらない。キッチンには加熱時間の異なる3つのスープが準備されていた。それぞれを味見しながらブリックス濃度(※)を測り、NG例を挙げながらスープの管理方法を身につけるためのものだ。

許容されるブリックス値は6~6.5。その基準に対して、加熱し過ぎて煮詰まったスープはブリックス値が7以上を示す。スープを適性に保つには、味以外に色や香りにも注意する必要がある。宮木はそれらの項目を一つひとつ確認しながら、五感すべてを使って正しいスープを記憶するポイントをメンバーに伝えていた。

スープ以外に、麺上げなどに関しても確認が必要だ。食材のカットの仕方、厚さ、保存方法などにも基準値が設けられている。キッチンでは、数人のメンバーがカットしたチャーシューの重さや厚さを測ったり、ネギの切り方を比較したりしながらマニュアルに定められたルールの再確認が進められた。

※ブリックス濃度=スープの中にどれだけ固形物があるかの指標。


世界10カ国から集まった経験ゆたかなメンバーたち

各国のスタッフは、ほとんど全員が母国語に加えて英語が堪能である。研修中の質疑応答では、別のスタッフがさらに質問を重ね、その場で別のメンバーが通訳しながら議論が白熱する、といった場面も見られた。英語や中国語のほか、アジア中の言語が飛び交う研修施設の中は、九州の山奥でありながら実にグローバルな異空間だと言えるだろう。

参加メンバーそれぞれが経験と学びを得て、課題とビジョンを共有することができた6日間。参加メンバーのなかで、エミーいわく「かなり変化し、大きく成長した人物の一人」だというアンジェロに、研修後の感想をインタビューした。

Angelo(アンジェロ)


2013年 IPPUDO AUSTRALIA Pty Ltdに入社。現在オーストラリア事業のDistrict Managerとして勤務。

―研修はいかがでしたか?

世界中から参加したマネージャーと出会える素晴らしい機会でした。基本的なオペレーションだけでなく、一風堂の精神や哲学を体感することができました。他国のオペレーションや挑戦していることについて話し合う場はとても意義のあるものでした。スープと麺の研修は目から鱗でした。知識を自分のものとして習得することができたので、自信をもって自国のスタッフにトレーニングできそうです。

―研修を終えて自分が「変化した」と思うことは?

今回の研修では、私が持っている一風堂ブランドの基準を再確認することができました。参加者全員が高い基準のQSC(※)とおもてなしの心を持っているとわかり、まずは自分自身が今以上に厳しく基準を追及しなければならないと実感しました。そして、自国のスタッフも同じ基準を持てるよう指導し続ける必要性を再認識しました。

私は生真面目な性格なので、これまではスタッフに少し強く言い過ぎることがありました。今回の研修では、一風堂の基準を維持する方法とともにコミュニケーションの方法も学ぶことができたので、指導がより円滑になると感じています。スタッフの日々の行いに落とし込むこと。これが何よりも重要ですね。

QSC=商品の品質(Quality)・サービス(Service)・清潔さ(Clean-liness)

「早い」「安い」など国内では手軽な食事というイメージが強い「ラーメン」だが、海外では事情が異なる。研修に参加したカレンの母国・シンガポールでは、ラーメンは今や高級食のひとつとして定着している。一風堂の看板商品である「白丸元味」は1杯15シンガポールドル(約1230円)。カレンは「一風堂のおかげでラーメンの文化が広がった。ここのラーメンはクオリティが高く、普通のラーメンではないことをシンガポールの人々は知っているから、その一杯を求めてお店に行くんです」と話してくれた。

シンガポールでは今後の出店計画も進行している。カレンは「とてもタフだけど、やりがいを感じます。同じオペレーション、同じサービスを徹底したいですね」と意欲的に語っていた。

Karen(カレン)


2009年 IPPUDO Singapore Pte.Ltd.に入社。現在はシンガポールのHR部門のGeneral Managerとして勤務。一風堂の創業者・会長である河原成美との出会いをきっかけにラーメンに興味を持つ。

フィリピンから参加したジョセフィさんもまた、一風堂がオープンしてから自国の認識が変わったと実感する一人だ。「フィリピンでは、少し前までラーメンはセレブだけのためのものだったけど、一風堂が来てから大きく変化しました。もっとたくさんの人がラーメンを楽しむようになった。商品力、情熱、作り方、おもてなし。ただラーメンを作るだけではなく、その一杯をどのようにして提供するかが大切なんです。一風堂の制服を着ることができて、とても誇らしく感じています」と語ってくれた。また、今後の出店計画に関しては「今はまさに挑戦の時期です。とても楽しみですね」と目を輝かせていた。

Joseph(ジョセフィ)


2014年 Standard Hospitality Group(一風堂のフィリピンにおけるライセンシー)入社。インターナショナルレストランで勤務した経験がある。現在はフィリピンで一風堂事業のRESTAURANT GENERAL MANAGERとして勤務。