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FEATURE

 2018年7月、力の源ホールディングスは、親子で遊んで学べる社会体験アプリ「ごっこランド」にて、ラーメン作り体験ゲーム「一風堂のラーメンをつくろう」をリリースしました。スマホやタブレットなどの端末上で、ラーメンづくりを疑似体験できるこのコンテンツは、公開後半年を待たずに早くもプレイ回数250万回を突破。スマホの画面を通して、子どもたちの笑顔を生み出すコンテンツとして支持されています。
 今回は、「ごっこランド」を提供している株式会社キッズスターの松本健太郎さんと、この開発に携わった力の源グループの工藤智と関口照輝による対談を実施。キッズスターが入居している、中学校を改装した施設・IID 世田谷ものづくり学校を舞台に、「ごっこランド」が目指す世界や、一風堂が長年実施しているラーメンづくりの食育活動「一風堂ワークショップ」とのつながりについて語り合いました。

ITと子ども、一見縁遠いものを組み合わせてみたかった(松本)

ー そもそもキッズスターさんはどういう形でスタートしたのでしょうか?

松本 現在は独立した法人ですが、2011年に弊社代表が事業会社の新規事業として立ち上げたのが始まりになります。ITと子どもという一見縁遠いものを組み合わせてビジネスにできないか、と考えていました。ちょうどiPadが出回り始め、大きな画面でコンテンツを表示でき、子どもでも遊べるような世界が具体的に見えてきた頃ですね。これならやる価値はあるだろうと、最初に絵本を読めるアプリの開発を進めていったのが始まりです。その次に始めたのが「ごっこランド」ですね。

松本 健太郎(まつもと けんたろう)
株式会社キッズスター 取締役


ソフトバンク、カルチュア・コンビニエンス・クラブ等を経て、2012年より株式会社キッズスターの創業メンバーとして参画。
https://www.kidsstar.co.jp

ー「ごっこランド」がどういうものか改めてご説明いただけますか?

松本 親子で楽しみながら社会体験ができる、無料の知育アプリです。2~3歳から小学校低学年の子どもたちが「おすし屋さんごっこ」「薬剤師さんごっこ」など、1本のアプリで様々な企業公式の “ごっこ遊び”を体験できます。体験できる業種も幅広くなっていて、最近だと三菱UFJ銀行さんや日本生命さんなどにも参画いただき、現在は24種類のお仕事体験ができるアプリになっています。

「ごっこランド」内の「一風堂のラーメンをつくろう」のTOPページ。

ー 子どもはもちろんですが、保護者にとっても助かるアプリになっていますね。

松本 ありがとうございます。元々、親御さんが安心して子どもに渡せる知育アプリを、と考えていて、子どもたちとそのパパママ、おじいちゃん、おばあちゃん、地域社会も含めてターゲットに考えていました。仕事を終えて親御さんが夕食を準備している時間帯に、「テレビを見せようにも見せたい番組がない」とか、「Youtubeを見せるよりは…」というニーズの受け皿になれているのかなと。小さな子どもにスマホを使わせるときに、少しでもためになるとか、意図しない動作がないという点が支持されているのだと考えています。

 
 

幅広い世代のファンづくりが私たちの命題(関口)

ー その中で、ラーメン屋さんごっことして、一風堂に声を掛けていただいたということですね。関口さん、工藤さんはどういう形で関わっていったのでしょうか。

関口松本さんに企画の説明をしていただいて、これはすごく良いコンテンツだなと思いました。幅広い世代のファンづくりは常に一風堂の命題でもありますし、何より私たちは、2003年から小学生を対象にした「一風堂Workshop」という食育活動をおこなっています。また、福岡では常設のラーメンづくり体験施設として「チャイルドキッチン*」も運営しています。言ってみればこれはそのデジタル版ともいえるコンテンツなので、一風堂として発信する意義やストーリーをすんなりと思い描くことができました。

*チャイルドキッチン
福岡の常設施設「チャイルドキッチン」の参加者は、2018年6月日本国内参加者60,000人突破。また、海外においてもシンガポールをはじめ台湾、マレーシア、フランスでもイベントとして定期的に実施しており、参加者は3,000人を超えている。

関口 照輝(せきぐち てるき)
株式会社 力の源ホールディングス 人財戦略本部 採用グループ グループリーダー


学生時代に一風堂でアルバイトを経験。ファーストリテイリング、リクルートライフスタイルを経て、2016年に力の源ホールディングス入社。

工藤 「一風堂Workshop」はもう長年やっていますし、毎回子どもたちに喜んでもらっています。それこそ、私は海外に赴任していた時期があるのですが、海外でも「IPPUDO CHILD KITCHEN」という名で開催しています。ラーメンづくりの楽しさは世界共通で、どこでやっても子どもたちに笑顔になってもらえます。それをデジタルの世界でやれるのはとても良いことだなと、ポジティブに受け止めることができました。

工藤 智(くどう とも)
株式会社 力の源カンパニー 執行役員


2003年、新卒で力の源カンパニー入社。店長~エリアマネージャーを歴任後、2012年から香港やマレーシアなど海外の新規立ち上げを経験。2017年より現職。

ー 松本さんは、一風堂がそういった活動をしているのはご存じだったんですか?

松本 はい、実は福岡でその「チャイルドキッチン」を見学させて頂いたことがあり、麺づくりや餃子づくりを拝見していたので、最初からピッタリだなと思っていました。もちろん、リアルな体験に勝るものはありませんが、場所や時間の制約がどうしても出てしまいます。それを補完するようなことを「ごっこランド」でお手伝いできれば、と思っていました。マクドナルドさんの職業体験「マックアドベンチャー」がまさにその事例で、同じく「ごっこランド」に参加してもらっていたので、イメージもしやすかったと思います。



「一風堂Workshop」の様子。小学校の体育館を借りて、子供たちとラーメンづくりを通じて食の大切さを伝えている。

 
 

博多ラーメンならではの文化も伝えるものにしたかった(工藤)

ー 中身のコンテンツはどのように詰めていったのでしょうか?

工藤 単純に「つくる」「食べる」ということだけにフォーカスしていたわけではなかったですよね。博多ラーメンならではの文化や、“Zuzutto”すするといった一風堂の啓蒙活動の部分もゲーム性の中で伝えていければ、というアイデアを出し合いながら。その中で、麺の固さによって茹で時間が異なることを分かりやすく入れたり、ユニフォームを細かく再現したりということにつなげていきました。

粉から麺をつくる工程や、麺の固さによって茹で時間が異なることも再現している。

松本 担当のデザイナーが福岡出身、他のメンバーも一風堂のファンで思い入れが強く、オーバークオリティと言いたくなるぐらい丁寧な仕事をしてくれました(笑)。体験コンテンツを作る時に一番気を付けているのは、子どもだからと言ってクオリティに妥協しないということですね。一番素直で、一番厳しい目を持っているお客様ですので。我々はコンテンツを公開する前に、実際にターゲットとなる世代の子どもたちを集めてプレイしてもらい、狙った通りの反応をしてくれているかなど、複数回チェックを繰り返しています。社内にキッズスペースがあってユーザーさんを招待したり、周りにある児童館に協力してもらったり、廃校というこの場所がうまく機能しているところもありますね。

ー 実際の反応はいかがでしょうか?

松本 公開して半年弱で250万回以上プレイされています。特徴としてはリピーターがすごく多いという結果が出ていますね。そもそもラーメンというものが子どもたちにも身近であるということもありますし、盛り付けの要素が自由なコンテンツなので、自分の好きなラーメンを作れるという楽しさもあると思いますね。

工藤 一風堂の店舗では、お子様向けのメニュー表を用意しているのですが、それに「ごっこランド」のQRコードも入れているんですよ。それもあって、待っている間に楽しそうにプレイしている子どもたちが多いですし、社員にも小さな子どもを持つ世代が多く、自分の子どもにも遊ばせているという話をよく聞きますね。

関口「ごっこランド」を導入した目的として、社員の家族に対してもロイヤリティを上げられるものになったらいいなと。お父さんが働いている会社のゲームがあるって、とても誇らしいことなのではないかなと思っていて、そういう反応を聞くと嬉しいですね。

キッズスターのオフィスが入っているIID 世田谷ものづくり学校にてインタビュー。廃校となった中学校を再利用している施設。

 
 

子どもたちが最初にブランドと接するメディアかもしれない(松本)

ー ブランド価値向上にもつながっていると。

松本 「ごっこランド」は、子どもが最初にブランドと接するメディアになっている側面がありますね。対象年齢が2歳からですので、例えばラーメンを知る最初の想起として「一風堂」が挙がるということが強みになり得ます。最終的にはお店に来店いただければなおよしなので、そのきっかけや安心感につながればいいなと思っています。短期的なキャンペーンではなくて、長く使われるものだと思っているので、それがクライアント様に対して果たせる使命なのかなと。

工藤 「一風堂Workshop」も根っこは同じなんですよね。2003年から始めて、15年で600校以上で開催しています。お客様として改めて来てくださる方もいれば、ここ数年はそれを体験した子が一風堂のアルバイトとして働いてくれるというケースもあります。これだけの実績を残すって簡単に真似できることではないし、自分たちが思っている以上に意義のあることだと気付けたというか。圧倒的な数は裏切らないし、積み重ねてきた凄みみたいなものが、今の一風堂を支えてくれている側面もあるんだなと。それがこの「ごっこランド」との連携でさらに強まると良いなと思っています。

関口あとは「ごっこランド」海外版への拡大も期待したいですね。「一風堂Workshop」が海外での実績もあるように、このコンテンツの反応は、子どもたちにとって世界共通だと思うので。

キッズスターのオフィスの様子。奥にはキッズスペースもあり、テストトライアルのために子どもたちが遊びに来ることもしばしば。

 
 

変化を楽しみながら価値を最大化していきたい(松本)

ー ちなみにこのサイトでは、“働くを楽しくする”というテーマを掲げていますが、松本さんが思う仕事の醍醐味を伺っても良いでしょうか。

松本 私たちの仕事は、2つのお客様が存在します。子どもたちと参画いただくクライアントです。前者が求める価値というのはある意味で普遍的なのですが、後者のそれはケースバイケースです。お客様を増やすことなのか、ブランド価値を上げることなのか。業種も幅広く、その都度違う頭を使うのが、難しくも挑む価値のあるビジネスですね。それこそ、ラーメン店もあれば銀行や生命保険会社もあって、一から勉強ですから(笑)。様々な制約条件の中で、双方のお客様を見ながら、最大公約数を作り続けるということが面白さでもあるのかなと。力の源さんの「変わらないために変わり続ける」という経営理念がすごく刺さるなと思ったら、我々のビジネスそのものなんですよね。変化を楽しみながら、届ける価値をどう最大化していくか。これからも追い続けていきたいです。

最後にキッズスターオフィス前の廊下にて撮影。背景のボードは黒板になっていて、子どもたちが落書きをすることもあるそうです。

文=前園 興/写真=安澤英輝
※所属、役職はインタビュー当時のものです。