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FEATURE

3仕事に楽しさを見出すのも失うのも自分次第

─ 山下さんのモチベーションの源泉はどんなところにあるのでしょうか?

山下こうしようと自分で決めたことを突き詰めるのは非常に厳しいですけれど、サービスという仕事に、愉しさを見出すのも失うのも自分次第なんです。

例えばソムリエ・コンクールで世界一になっても、僕はそのソムリエさんが世界一とは思わない。その方が世界で一番お客様を楽しませているかどうかは図りようがないし、もっというと、100人のお客様がいれば、100人のお客様にとっての世界最高のサービスマンがいるわけですから、それがこの仕事の面白いところです。

これはあくまでも僕自身が理想だと思うサービスマンの話ですが、お客様の人生は多種多様ですから、対応するにはいろんなことに興味持つことだと思っています。

カフェ・ド・フロールには、あの大女優のカトリーヌ・ドヌーブさんが来るのですが、僕がパッとライターを取り出してタバコに火をつけるんですね。あのドヌーブに自分が火をつけてる! というミーハー心というか、あらゆる状況を楽しめる好奇心をもつことも要素のひとつでしょうね。

4本物を世界に伝えるという、一風堂が担う使命は大きい

─ 一風堂と山下さんの出会いのきっかけは何だったのでしょうか?

山下2013年の夏の終わりぐらいに、「パリ・ラーメンウィーク・ズズット」がパリで開催されるというのをネットで知り、その後その準備のためにパリに来た一風堂の方々との交流がうまれました。レセプションにも呼んで頂いて、「お手伝いできることがあれば!」ということで自身のオフの日には1日だけサービスを務めさせていただきました。

実は無類のラーメン好きというわけではないのですが(笑)、常日頃日の丸を背負っている気概で給仕をつとめている僕としては、一風堂さんがクールジャパンの一環でパリに進出するということがひとりの日本人としてすごく嬉しかったし、本物の良さを世界の人に伝えて欲しいと思っています。御社が担っているその使命は大きいものですが、みんなが愉しみながら挑戦しているというところが魅力的であり面白いです。

一風堂が海外に出ることで本物のラーメンの魅力を伝えて、さらにその結果として現地の人たちが日本に興味を持ったり、日本を好きになったり、旅行に来てくれたらそれこそクール!だと思います。外国人がパリに憧れて旅行するように、一風堂のラーメンに憧れて東京や博多に足を運んでくれるようになるのが、クールジャパンの最終的に目指すべきところではないかな?と僕自身は考えています。

─ サービスという仕事の可能性についてどう思われますか?

山下日本での良いサービスが必ずしも世界で通用するとは僕は思っていません。実際、世界で通用しない部分もあります。そのことを海外で実際に働いて、自分の肌で感じることはすごく大事なこと。肌で感じないと納得できないものもあります。言葉の壁や文化の違いに臆することなく、サービスマンはもっともっと海外に出るべきです。と同時に、日本人ならではのサービスの良さというものがあります。グローバルなスタンダードをしっかり知りながら日本人の特質を活かしたサービスをすることが出来たら良いですね。

先日、一風堂さんのパリのスタッフに1時間くらいお話をさせて頂く機会がありました。その時に、あなたたちは一風堂の顔になってください、まずラーメンを好きになって、一風堂のラーメンをよく知ってください。食べに来て頂いたお客様がラーメン好きになったり、それをきっかけとして日本へ旅行するようになったり、その延長線上で住むことになったら面白いでしょうとお話ししました。サービスの仕事には終わりがないので、人と人との勝負の場だから限りなく面白いし、限りなくクリエイティブな仕事なんだよと。

そう話しながら自分自身も、なぜこの仕事をしているのかを再確認していました。
給仕という仕事は精神的にも肉体的にも厳しいもので、その中で愉しさを見いだせるか見いだせないかは自分次第。でも、ある種の快楽にも似た愉しみを見出しちゃったらこれほど愉しい仕事はない。僕自身、学生の頃何気なしにアルバイトで始めたこの仕事が天職になるとは当時は想像もしていなかったですからね(笑)。

やってみなければ、わからない!!!

聞き手=関口照輝、撮影=原智彦、文=岡本ジュン
※所属、役職はインタビュー当時のものです。