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FEATURE

2016年、浜松町と西五反田にオープンした日本酒のスタンディングバー『一風堂スタンド』。
そこで、その業態開発の発起人となった中心人物が集い、シンガポールと東京をネット回線で結んで座談会が行われた。参加者は、『一風堂スタンド』を手掛けた島津智明、島津と共にNYで働いた経験を持ち、シンガポールの『BAR IPPUDO』マネージャー中筋堂雄。そして、同3店舗の日本酒のセレクトを手掛ける住吉酒販の庄島健泰氏。それぞれが活躍してきた、NY、シンガポール、博多、東京など、幅広い地域について話が広がり、これからの一風堂や日本酒の世界についてトークが盛り上がった。

ファシリテーター 関口 照輝(せきぐち てるき) 力の源ホールディングス コミュニケーション・デザインチーム

1日本酒×一風堂

共鳴する価値観の出会いが縁を生んだ

関口『一風堂スタンド』では住吉酒販さんに日本酒をセレクトしていただいていますが、そもそも最初のなれそめというのは、中筋と庄島さんの出会いからでしょうか?

中筋2015年の1月に、会長の河原からシンガポールの『BAR IPPUDO』の話をもらって、全国の酒蔵や酒屋さんを探している時に伺ったのがきっかけです。

庄島 そうそう。中筋さんがシンガポールのお店のために日本酒を探していらして、その流れで訪ねてきてくださったんですよね。

関口住吉酒販さんのことはどうやって知ったんですか?

中筋住吉酒販さんは福岡では有名なので、お名前は知っていました。
そこで、ふらっとお店に立ち寄ってみたんです。一風堂では、白丸元味は白丸クラシック、赤丸新味は赤丸モダンと英語で表記しますが、住吉酒販さんも日本酒を「モダン」と「クラシック」というカテゴリーに分けていたので、その共通点をきっかけにお話を聞いてみたいというのが始まりです。

庄島 そうでしたね。キャッチー且つ、何か的を射た表現がないかとずっと探されていて、それがうちの「モダン」と「クラシック」というジャンル分けにハマったというお話だったと記憶してます。

中筋うちと同じモダンとクラシックというジャンル分けをされていたので、この共通点で何かできないかなと思ったんです。

庄島 健泰(しょうじま たけやす)
住吉酒販 専務取締役
博多の酒屋の2代目。「酒に笑う人生」をモットーに、独自のチャートやツールを生み出し、日本酒を分かりやすく伝える伝道師。浜松町、西五反田『一風堂スタンド』、シンガポール『BAR IPPUDO』の日本酒セレクトを手がけている。

庄島 最初に中筋さんが訪ねてきた時は、さすが世界に向かう一風堂さんのスタッフだけあって、グイグイくるパワーを感じましたね(笑)。実は今だから言えますが、本当は2008年にNYで一風堂さんがお店を出されると聞いた時に、何か関わりたいなと思っていたんです。

島津 繋げてくれたらよかったのに(笑)。

関口中筋の登場が少し遅かったんですね(笑)。逆に、庄島さんの印象はどうでしたか?

中筋豪快な人だというのと、話してみたらお酒に対してすごく真摯な方だなと。それで一度シンガポールへ来てくださいと頼んだんです。そしたらすぐにシンガポールへ来てくださいました。そこで食べたり飲んだりして、一緒に時間を過ごすうちに人柄に惚れてしまいました。これは絶対に日本で誰かに繋ぎたいなと思って、すぐに島津を紹介したんです。

関口じゃあ、それが『一風堂スタンド』に繋がっていくんですね。

中筋そうなんです。

中筋 堂雄(なかすじ たかお)
BAR IPPUDO(シンガポール)マネージャー
アメリカの大学を卒業後、島津と共に『IPPUDO NY』の運営に参画。NY店でのバーテンダーを経て、シンガポール『BAR IPPUDO』の立ち上げから関わり、住吉酒販との連携を繋げる。

庄島 シンガポールの中筋さんのところに伺って、戻ってきたらちょうどその時『一風堂スタンド』の話が動き出していて、島津さんを紹介してもらいました。

島津 庄島さんは、最初はちょっと怖い人かなという印象でしたが(笑)、お話を聞いて今までお会いした方と違う価値観や観点がある人だと思ったんです。『一風堂スタンド』に置いている日本酒のチャート表とか、どうやったら日本酒を飲んでもらえるかという提案を、楽しみ方を含めてご提供いただき、これは一緒にやれたらすごく面白いことになるだろうと確信しました。

島津 智明(しまづ ともあき)
住吉酒販×力の源ホールディングス 営業本部長
NYの『IPPUDO NY』を2008年に立ち上げて2015年帰国。NYで日本酒の可能性に気づかされ、立ち飲みの日本酒バーと、一風堂を組み合わせた業態である『一風堂スタンド』を企画。

庄島 こう言うと語弊があるかもしれないですが、地酒専門店ではよく“蔵元の思いを伝えたい”と言うんですけど、僕はその前に、酒屋の僕らの思いを伝えないといけないと思っているんです。
お酒は、飲食店さんの営業のお役に立てるのが一番であって、それを実現することができれば、最終的に蔵元の「妥協せず美味しい酒を造る」というこだわりが伝わると考えているんです。だからいきなり日本酒の背景だったり、製法だったりを説明するのはすごく違和感があって、まずはお店の中でこのお酒にどういう役割があるのか知ってもらいたいんです。

僕には、ワインに赤と白がなかったらここまで世界中に広まらなかったという仮説があるんです。赤と白に分かれているだけで、事故が減るわけじゃないですか。さわやかなものを飲みたいのに赤ワイン頼む人いないし、肉料理をがっつり食べたい時には白ワインは頼まないみたいな。そういう意味で、日本酒をモダンとクラシックに分けることは、日本酒にとって一つめの入口だと考えています。

島津 赤と白があったからワインが広まりやすかったというのはすごく伝わりやすい。それが日本酒ではモダンとクラシックなわけですね。